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天外Ⅱの戦闘システムについて(3/終)
前回、「どうしてフェイズ戦闘システムだったのか?」という話を書いたけれど、少し付け加えておくことがある。

フェイズ型の戦闘の眷属の中で、ファミコン版FFシリーズはウィザードリィの要素や他にもいろいろ加えた結構複雑なシステムだった、ということ。
FF1では先頭から順に攻撃されやすいというルールが入っていたし、FF2では前列・後列と攻撃範囲・弓矢や魔法と手持ち武器の違いといったものが入っていた。
これは多分、ドラクエと差別化するためだったと思うのだけど、これが後のATBといった複雑なバトルに進んでいく一因になったと思う。

と、ちょっと追加したところで、前回の話の続きで、今回とも関わる原理的な話を書いておく。
それは『フェイズ型の戦闘の行動解決の順序ってのは、なんなんだ?』という疑問だ。
例えば6秒1ターンで、全員がヨーイドンで動くなら、全員同じタイミングで動き出すはずだ。
だとすると「行動順序ってなんなのよ?」という疑問が出てくる。
これに対して、例えばスタート時の反応だって答えを出すことも出来るけれど、6秒に一度ずつヨーイドンしてるってのも、ムリクリも度が過ぎる。
そして、実はこの質問に対してゲームデザイナーからの答えが書かれている文を見たことがない。
どうしたってペーパー&ペンシルでは同時処理は出来ないのだから、しょうがないから逐次行動するときのために順番を決めている…って都合でしかないと思うのだけど、僕は一応これに対しての理屈はあって、ヨーイドンな順ではなく、本来は「その6秒の中のいつ行動を始められたのか?」だと考えていた。
つまり、動きの遅いヤツは例えば「前のターンからなんかまだやってて、動けるようになったのは2秒目からだった」みたいな解釈だ。
そして、これはチョッピリ、僕が最初にデザインした天外Ⅱの戦闘システムと関わっている。

では、僕が最初に提案した天外Ⅱの戦闘システムはどのようなものだったのか?

ところでちょっと書いておくと、当然のことながら、この戦闘システムは

●当時の主流の対面型であること
●ユーザーに違和感を感じさせないこと

この2点は必須になっていた。

また僕はゲームデザイン的観点から、凄ノ王で使ったようなアクションポイント型のゲームシステムには批判的になっていた。
なぜなら、アクションポイントがなくなるまで自由に動けるのは、ペーパー&ペンシルなゲームでは管理の都合上仕方ないけれど、実際の動きとして考えるとアクションポイントが大きくなるにしたがって、矛盾点が噴出する。
例えば、P1とP2がいるとして、移動>攻撃>移動>攻撃>攻撃、なんて、何度も移動&攻撃が出来るぐらいアクションポイントが増えたとき、次にP2が行動するとしたら「P1が行動した後、時間が巻き戻り、P2が行動する」としか思えない挙動になる。
これは気持ち悪い、と考えていたので、このときには「コンピュータゲームではアクションポイントシステムを使う必要はほぼない」という判断に至っていた。

では、最初にどういう戦闘システムを考えたのかというと、以下の通り。
全キャラクタは、それぞれ素早さを0-10で持っているとする。
次に、あらゆるコマンドには、それぞれのアクションに必要なアクションタイムがあるとする。
例えば、攻撃なら30,魔法なら10といった具合。
そして、それぞれのキャラクタは待ち時間を持っていて、それぞれの待ち時間から素早さを引き算して、これが0以下になったキャラクタが行動出来るというルールにする。
また0以下になったキャラクタが複数いるときは「マイナスの大きい方」が先に行動する。またマイナスの数値にアクションタイムは足される、とする。例えばー5になったキャラクタが攻撃を実行したら、ー5+30=25になるってこと。

さて、分かりやすく、素早さ10のプレイヤーと素早さ5のモンスターが戦闘したとする。
最初に、プレイヤーが動いたとして、どちらも攻撃しかしないとして、行動表を作ってみよう。

アクションプレイヤー待ち時間モンスター待ち時間
プレイヤー攻撃300
モンスター攻撃30(ここでは時間が経たない)30
待ち時間20(素早さ10引く)25(素早さ5引く)
待ち時間1020
待ち時間015
プレイヤー攻撃3015(時間は経たない)
待ち時間2010
待ち時間105
待ち時間00
プレイヤー攻撃300
モンスター攻撃3030

もちろん、実際には待ち時間は表示しないけれど、ここでは分かりやすく書いた。
これで
プレイヤー=>モンスター=>プレイヤー=>プレイヤー=>モンスター
…と、素早さに応じた行動になるし、さらに、行動の重さや様々な表現が出来る。
しかもフェイズ型ゲームシステムの問題点は全部解決している。
完璧だ、と思ったのだけど…
この戦闘システムはアッサリ、桝田さんと広井さんに却下された。
理由は簡単で分かりにくいから。

「どうして、プレイヤーが2回連続で行動できるのかとかわからない。プレイヤーが動く分には不満が出ないけれど、素早いモンスターが何度も動くとプレイヤーは絶対に不満に思う、だからこれはダメだ」

結構いろいろ説明したのだけど、受け入れてもらえず、この戦闘システムは葬られることになった。

なぜなら、今まで何度も書いてきた通り、天外Ⅱは受けることを絶対的に要求されているソフトだった。
それが従来の、フェイズ方式、すなわち全員行動を決めてから、戦闘解決方式を廃止する程度ならまだしも、素早さなどに応じて何度も行動できたり出来なかったり…こんなシステムを当時のドラクエ2~4あたりのユーザーに食わせるって考え方自体にムリがありすぎる…と、今の僕は思う。
つまり「商売として厳しいからナシ」だ。

また、今の目から見たとき、ゲームデザインとしてもナシだ。
なぜなら、プレイヤーから見て「次に誰が行動するのか?」がよく分からないからだ。
1ターンに全員一度だけ動くという分かりやすいルールと比べると、あまりに分かりにくいと言わざるを得ない。
これを考えず、誰がどう動くのかを説明するUIなりなんなりが提案されていない段階で、もう0点だ。
理想を追求するのは勝手だけど、それをプレイヤーが分からないのでは話にならない。
全く、自分のマニアぶりとモノの考えなさ加減に嫌気がさしてしまう。

このシステムは本質的にはFF4が提出したATBを対面型でやるシステムなのだけど、決定的にATBがエライのはリアルタイム云々より、それをゲージで分かりやすく表現した、ということだ。ゲージが進んでいって右端まで来たら行動できます。ものすごく分かりやすい。
そして、僕はそういう「人に分かりやすく説明する」アイディアを思いつけなかった段階でダメだったのだ。
※と書いたら、なんとSFC版はゲージがなかったことが判明した。リメイク版かなんかと混ざってたらしい。まあゲージの代わりにアニメしてた(詠唱表現とか)のでいいのかなあ…

で、却下されっちゃったので、次善の策として出したのが「1ターンに一度、全キャラが行動するのだけど、行動決定はその場」って方式だった。
つまり、雑に書くと、素早さ順でソートして、その場でコマンドを実行するって方式だ。
これも広井さんは難色を示したのだけど、実際に簡単なサンプルを作ってプレイしてもらったら「いいんじゃない?」ってことになって、採用、となった。

そして、実はここでしまったなあと思っていることがある。
当時は思いつかなかったのだけど、今なら絶対に入れたコマンドが一つある。
それは「様子見」
この手のフェイズ型の戦闘では「今、この瞬間だとやることがないので、しょうがないから防御する」という消極的な選択をするときがある。
ここで防御の代わりに「様子見」をすると、そのときの行動をパスし「防御よりはダメージは受けるけれど、その代わり、このあと行動出来ますよ」となるってわけだ。
これを入れると、素早さをあげることにとても大きな意味が出てくるので、どうしてこれを当時考えられなかったかなあと思ってしまう。
いやはや情けない次第だ。

というわけで天外Ⅱの戦闘システムは出来上がったのだけど、僕が最初に考えたアイディアは、実は後に使っている。
僕はあきらめが悪いのである。

それがリンダキューブ。
リンダでは桝田さんに「対面戦闘に新しいお題が欲しい」と言われ、前述の素早さのシステムを、シグナル(信号表示)を加えることで分かりやすさを出し、かつ地形効果を入れることと、モンスターが周囲にいるってアイディアを追加した。
まあ、いかにも当時のシミュレーションボードゲーマーらしい発想だと、自分でも思ってしまう。

しかし、この素早さのシステムを最もスマートかつ戦略的に作ることに成功したのはFFX。
FFXのCTB(カウントタイムバトル)は、前述した僕のシステムとほぼ同じ考え方、すなわちリンダと同じやり方なのだけど、次に誰が動くかを表の形ではっきり見せることで、とてもスマートに表示し、しかも相手を「後ろに押しやる」ことが出来るので、非常に戦略性も高い、完成度の高いシステムになっていた。

ただしFFXのCTBはATBのゲージの代わりに表として表示したシステムで、そういう意味ではルーツというか、考え方は若干違う。
またこれは解像度が高くなったPS2だから表示出来たわけで、同じアイディアを仮にリンダの時に思いついても、表示する方法がなかったよなあ、とは思う。

と、まあこんな感じで、天外Ⅱの戦闘システムはデザインされていったのである。
|| 19:29 | comments (6) | trackback (0) | ||

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コメント
グランディアの戦闘システムを思い出しました。

あれも移動+行動順解決に加えて、敵の行動を邪魔するということができましたが、ちょっととっつきにくかったですね……
| TAG | EMAIL | URL | 12/09/24 20:35 | Y1o1lXlA |
お邪魔します。SFC版FF6でロックにオーディンの魔石を装備してLVupボーナスですばやさを上げまくったのですが、行動後にATBゲージがMAXまで溜まっていても他のキャラや敵の行動が1ターン分終わるまで次の行動ができないことに苦い思いをしました。この時点ではまだ完全に確立できてなかったのではないかなという印象です。
| こ~ちぇ | EMAIL | URL | 12/09/22 13:07 | eFFXJsYI |
はじめまして。

RPGではないですが、「タクティクスオウガ」の行動順システムのことを思い出しました。装備の重さも影響するシステムでしたが。
| Hituji | EMAIL | URL | 12/09/21 09:27 | Zqls8kqk |
そうです、FF5からです。
次誰が行動できるのかをハッキリ明示させるというUIは
考えるとなかなか現れませんでしたねぇ。
次誰が動くのかターンが始まるまでわからないのも
相手の出方がわからない緊張感があったのかも。
ロストヒーローズやっててちょと想いましたw
| 鮭 | EMAIL | URL | 12/09/21 02:19 | VwM4LCq2 |
「グランディア」の戦闘で使われているIPゲージシステムって、今回とりあげられたような要素をうまい形で取り入れているように思うのですけど、もしグランディアの戦闘システムをご存知でしたら、その評価を聞いてみたいです。
| get | EMAIL | URL | 12/09/20 22:37 | GkqUTNZI |
ATB=ゲージが表示されているってイメージありますね。
ゲージが付いたのはFF5からでしたっけ。
| TT | EMAIL | URL | 12/09/20 22:17 | At4g8sww |
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