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バイオハザード(3/終)
1996・バイオハザード
こうして「キングスクエスト」から実に13年の歳月を費やして、主題「バイオハザード」にたどり着いたわけだが、ここで一つはっきりさせておくと、純粋にゲームデザインの上でのオリジナリティの観点から見たとき、バイオハザードは誉められた物ではない
システムは、これはもう"Alone In The Dark"(以下、アローン1)そのもので、違うというと失礼なほど。操作系まで全く同じ。
アドベンチャというジャンルの特性上、アイテムの扱いが普通のゲームよりやや複雑などの特徴はあるが、これは枝葉末節でゲームコアについてはそっくりと表現して間違いない。
演出技法はPS1なので当時としては強力なメディアCD-ROMのおかげでムービーが入っているが、そこを除けば、別段これといった違いはない(アローン1は当時の事情を反映してフロッピーディスクによる提供である)…というか、アローンの演出技法は本質的には映画の演出技法そのものなので、バイオの演出が同じなのも当たり前。

そして、さらにテーマがホラー。
バイオハザード1はネタがロメロ的なゾンビ物で、それに対してアローンはクトゥルー神話をモチーフにしているという違いはある。だから出てくるモノに違いはあるが、ホラーであるという点で変わりがなく、ますますアローン1の匂いがしてくるわけだ。

ロメロ的…とはもちろんジョージ・A・ロメロのこと。
"Dawn of the dead","Day of the dead","Night of the living dead"のいわゆる「ゾンビ三部作」で有名なホラーの監督。現代のゾンビのイメージを決定づける「近代ゾンビ」を作り出した、ゾンビ物に恐ろしいほど大きな影響を与えた人物。特に"Dawn of the Dead"でロメロが作り出したゾンビの設定
1.ゾンビは人を食う
2.ゾンビに咬まれるとゾンビになってしまう
3.ゾンビを倒すには脳を破壊する
この3つは、およそあらゆるゾンビ物に影響を与えている。むろん、この基本的なアイディアはブラム・ストーカーの「吸血鬼」から来ているのは言うまでもないだろう。なお、作品のタイトルから想像される順番と実際に映画館で公開された順番は違い、"Night","Dawn","Day"となっている。
またクトゥルフ神話は、オリジナルはアメリカの恐怖小説家、H.P.ラグクラフトが作り出した世界観。ラグクラフトの死語、弟子のオーガスト・ダーレスがまとめた「クトゥルー神話体系」が有名。
大変有名なシェアードワールドの一つで、日本でも菊池秀之氏など、多数の作家がこの世界観を使った作品を書いている。

また初代バイオハザード1はPS1時代のレンダリングパワーのなさと、どう作ればいいのかを迷っていたせいだと思われるところから、オープニングは実写ムービーである。そして、そのB級っぽさったら、全く文句のつけようのない、心の躍る素晴らしさだ。
頭以外は出てこないゾンビ犬だの、燃える背景に合成されて立つ実写のクリスだのジルだのS.T.A.R.Sのメンバーだのを、ぜひ見ていただきたいw

ただホラーについては、少し追記して書いておくことがある。
もともとカプコンはバイオハザード1以前に屈指の怖さを誇っていた「スイートホーム」(ファミコン。映画とのタイアップ作品)なんて作品を出していたりするし、オリジナルを作った会社の倒産によって作り手のいなくなった「クロックタワー」を買った会社がカプコンだったりする。つまりカプコンは不思議なことにホラーが好きな会社だったということだ(ホラーファンとしては残念なことだが過去形だと思う)。

そして、ここがとても大切なことだがバイオハザード1以前はホラーゲームは非常に少なく…つーか、皆無といっていい状態で、ジャンルとして成り立っていたと言えるような代物ではなかった。
今あげた「スィートホーム」以外を挙げたとき「ファミコン探偵倶楽部PARTII・後ろに立つ少女(任天堂・ディスクシステム・1989)」、「クロックタワー(ヒューマン/SFC/1995)」、「Dの食卓(ワープ/3DO/1995)」、「弟切草(チュンソフト/SFC/1992)」、エイリアンをモチーフにした「サイレントデバッガース(DECO/PCE/1991)」、マイナーなところで「ラプラスの魔(ハミングバード/PC88/1987)」、「PRODUCE(db-soft/PC88/1987 なお、ホラーと言っていいかは微妙)」、さらに無理やりでホラーをモチーフにしたアクション「スプラッターハウス(1988/AC/ナムコ)」、若干ホラーテイストのある「エイリアンシンドローム(セガ/AC/1987)」などなど、ハードを越えて歴代のホラー(っぽいものまで含む)をかき集めて、全部でこの程度しかないマイナーなジャンルだった。

このマイナーなホラーゲームをPS1でポリゴンでリアルタイムアドベンチャなんてまたマイナーな所で作ってしまうのだから、題材がホラーなのについてはパクるというよりは、良く作る気になったものだ、やっぱりカプコンはホラーが好きだったんだなあ、とどちらかといえば、褒めてしまいたくなるところだ。

そんなわけで当時の状況を考えればフォローする余地は若干はあるわけだが、それでもバイオハザードを意地悪な観点から見れば「単にPS(日本)にアローン1型のゲームを紹介すると同時に、ジャンルを確立した」以外の点で評価するべきポイントはない、特にオリジナリティについては見るべきところはないという書き方も不可能ではない。
だがジャンルとして確立したのは実は非常に重要で、絶対に軽視してはならないポイントだ。
アローン1は確かに革命的なゲームではあったが、そのグラフィックは当時の非力なマシンを反映して極めてチープであり、人は、かろうじて人の形をしており、屋敷も屋敷に見えないことはないという程度でしかなかった。またオーディオに関しても、当時のパソコンの能力を反映して、ヘッポコなモノでしかなかった。
当然の話ながら「ホラー」というジャンルは怖くないと困る。だから演出も重要ではあるが、その演出を活かすに足るグラフィックやオーディオがなければならないわけだ。
そして、アローンでは残念ながら、これは全く不足していたわけだ。
つまりアローンは恐怖感を斬新な手法で演出したのは事実だが、怖いと呼べるような代物ではなかった(ただしそれでも当時としては怖い部類だったのは間違いない。あと、モンスターが出てまでは怖いが、出てくると怖くなくなってしまうゲームだった。まあ、これは余りに難易度が厳しく、即死することが多かったので感覚が麻痺する要素もあったけれど…)。
逆の書き方をするなら、ウィンドウズが普及していない当時、パソコンでゲームをプレイしていたコアなゲーマーが感動したレベルで、決して誰もが見て感心出来るレベルのものではなかったわけだ(ウィンドウズ普及以前に、IBM-PC買い込んで海外輸入ゲームをやっていた人間はコアなゲーマーと呼ばれても仕方あるまい)。

ところがバイオハザード1は事情が違った。
1996年当時、最強のハードウェア3Dエンジン/グラフィックスを持っていた(言い換えれば、コンシューマ向けで最強のグラフィックを持っていた)のはPS1で、そのグラフィックの能力はパソコンを完全に圧倒しており、極めて写実的でリアルなグラフィックを作ることが可能だった(当時のPCで秒30フレームで、シェーディングしてなおかつテクスチャを貼るようなマネはほとんど不可能だった)。
しかもメディアはそれまで主流だったスーパーファミコンと違い、大容量のCDを使っており、存分に演出に力を入れることが出来た。
つまり、画面解像度の点を除けば、ほぼ最強に近いハードウェアの上で説得力を持って発売されたのがバイオハザードだった。

そして恐怖小説のように文字通り、文字しかないのが前提ならいざ知らず、テレビゲームは、本質的には映像メディア、すなわち映画やTVのような世界だから、画像の完成度は極めて重要で、一応、人のような形をしたモノが歩き回るのか、それともリアルな人が歩き回るのかではイメージが全く変わるのは明らかだ。
すなわち、バイオハザードは当時考えられる限りで、最良のグラフィックを持ち、十分なクオリティのサウンドを持ち、誰もが恐怖を感じるに足る十分な演出が行われた「アローン1型のゲーム」だった
そして、その迫力は当時のプレイヤーに説得力を与えるに十分なクオリティだったわけだ。だからこそ、バイオハザードの与えた恐怖感はユーザーを満足させ、PS1初のミリオンセラーソフトとなり、カプコンの看板ソフトにまでなることが出来たわけだ。

そして、なんとも面白いことに「アローン1」と「バイオハザード」のクオリティの関係は、違う形で再度見ることが出来る。
バイオハザード1をリメイクして作られたゲームキューブ版は、6年の間のゲームマシンの進歩をフルに活用し、圧倒的なリアリティと恐怖感で演出されていた。そしてGC版を見た後、PSの初代バイオハザードを見ると、まるでオモチャのようだった。
このあたりの関係は、特撮が進歩するに従って印象の変わるSF映画やホラー映画と似た要素があって面白いところだ。

当然の事ながら、最初にオリジナルのアイディアを作ることは偉大だ。だから、アローン1は疑いもなく偉大だ。
だが、そのアイディアを発展させ、極めて完成度の高い状態で世にスタイルを知らしめたバイオハザードも同じぐらい重要で偉大なゲームなのは間違いない。
そして、このバイオハザードが日本に紹介した「アローン1型」の演出やスタイルはFF(これまた同じくアローンの演出技法…というか、映画の演出技法を大量に導入したゲームであるが)とともに、1996-2001年のPS1世代の日本のゲームの主流のスタイルにまでなった。
それを考えたとき、優れた模倣者であるバイオハザードの偉さが分かるのではなかろうか。

ちなみに全くの余談だが『アローン』は、シリーズとして長く、今(2011年現在)も続いているのだが、その3作目が発売されたときに、ほぼ同時に発売されたのが海外版バイオハザード"Resident Evil"。
そして、アメリカの雑誌では、その本家本元のアローンと"Resident Evil"の評価が同時に載っていることが多かった。では、どちらが勝ちかというと、アローン惨敗。「"Resident Evil"と比べるとダメだ、ゴミだ、最低だ」とクソミソの評価だった。革命的なゲームも進歩しながら続編を作らなければ、評価は地に落ちるということである。

そしてバイオハザード以降
ところで、以下はバイオハザード以降の話だが、バイオハザードとFF VIIが決定的な形を見せた「背景を高品位なプリレンダ画像で表示し、その上にポリゴンを置く」方法は、期せずしてカメラアングルのあるマップを作りだし、結果として「意図したカメラアングルを持つゲーム」として確立する。
だが、これはプレイアビリティを犠牲にした方法だったのと扱いづらいことから、2000年代、PS2になって画面全体をリアルタイムレンダリング可能な時代に入ると、急速に廃れ、作り手側の要求するカメラアングルは実質的にムービーシーン以外に存在しない時代が長く続くことになる。
これに一石を投じたのが「Heavy Rain(Quantic Dream/PS3/2010)」…というような話を、昔書いた。
今回のバイオハザードとも繋がっている話ではあるので、興味があったら読んでみてくれると幸いである。

FFVIIIにあって今のゲームにないもの(上)
FFVIIIにあって今のゲームにないもの(下)
|| 21:13 | comments (2) | trackback (0) | ||

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コメント
すっかり忘れてましたw
Team Innocent、確かにありましたね。

こいつも\"Alone\"の系譜…といっていいのか…結局背景がポリゴンでもキャラは2Dなのでどちらかというとキングズクエストの系譜かなあ…とも思うところですが、まあポリゴンがFXにはなかったですから、こうなるのもしょうがなしですね。

しかし…これを作った金田君は今はなにをしているのだろう…
| 岩崎 | EMAIL | URL | 11/09/18 21:46 | PcmUKbd6 |
はじめまして。
Alone In The Darkとバイオハザードのすき間に、TEAM INNOCENT (1994年、PC-FX)という怪作もあります。
人に言わせると、「バイオはTIのパクリ」とかだそうですが、並べてみるとAlone In The Darkが先駆ですね。改めて気づきました。
| yuhkan | EMAIL | URL | 11/09/18 21:26 | f4CWENAo |
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