2011-08-20 Sat [ 転載物::商業誌 ]
これは『電撃王』や『電撃プレイステーション』に載せていたコラムの中で思い入れが深いものを、細かくアップトゥデートして載せていくシリーズ。
今回は、2005年の電撃プレイステーションに載せたコラム。
今『鉄拳5』をやっているのだが、これが猛烈に出来がいい。レビューをやっていた当時なら90点以上はつけないと嘘でしょうって代物。
およそ、アーケードファンにはケチのつけようのない完成度なのだが、この作品、鉄拳4と比較してエラく違う作風になっている。
いや、正確に言うなら、鉄拳5は1-3の直系の子孫で、4が別の要素を持った違う系列の作品なのだ。
その1~3、5と4の一番違うところは「地形効果」。4で入れた地形の要素を5では全て取り払って、先祖返りしたわけだ。
元々、このジャンルには「リングアウト負け(勝ち)」といった端を意識しないといけないゲームがあったが、それを大幅に拡張し、そのバトルフィールドそのものが、斜めになっていたり、形が四角や丸といった単純な物でなくなったり、箱があったりと…フィールドをリアルにすることに『バーチャファイター3』が挑戦したわけだ。
で、この3でのチャレンジを受けて、『DOA2』や『鉄拳4』でも地形効果が取り入れられたわけだが、ゲームデザイナーやプログラマに取っては意味のあるチャレンジだったろうが、正直な話、ゲームシステムとしては成功したとは言い難い。
この理由はいくつか考えられるが、まず第一に「要素が増える、すなわち複雑化する」のがある。ただでさえ相手との駆け引きに忙しいのに、考えることが増えるのは面倒なのは間違いない。そして当然それはゲームが複雑ってことだから、プレイ人口が少なくなる、すなわちメジャーになりにくいってことになる。
第二に、一見、地形効果ってのはリアルで面白いように見えるが、実は現実からはかけ離れた扱いにくい状況だ。確かに映画やコミックの中では、地形をうまく使った格闘シーンなんていくらでもあるが、これは映画では慎重に「盛り上がるように」いろいろなモノが配置されていて、それをシナリオ通りに順次使うモノでゲームに応用するのは難しい。当たり前だがコミックでも盛り上げようのもので、ゲームで使うのに難しいのは変わらない。また実生活で毎日のように地形効果を使って、喧嘩をしている人はそうそういないのは間違いないだろう。
そして現実に見たり、やったりする格闘は、たいていスポーツの形を取っていて、平坦な道場で、せいぜい場外がある程度の地形的には極めて単純な所で行われている。すなわち、一見リアルに見える設定は実はプレイヤーの「リアルな感覚」には、全くないモノなわけだ。
しかもだ。これに加えて操作系の問題が面倒に拍車をかける。
現実世界で相手が1メートル高い台の上に乗っているときに「しゃがみキック」で足払いをしようとする人間はいないだろう。ところがゲームでは操作系の都合上、簡単にこれが出来てしまう。これを解決するには、自動で補正して相手が上にいるときには、上にあたるしゃがみキックが出る、状況に応じて「しゃがみキックの性能が変わる」覚えることの多い面倒なゲームを作るか、それとも地形はただの見かけで全然意味がないゲーム(しゃがみキックの性能は常に同じなのだから、見かけが違うだけだ)を作るかのどちらかになってしまうことになる。
と、これでわかると思うが、地形というのは、どこの誰もが使い方を分かって、しかもそれが機能する「リングアウト」程度以外は、まず意味をなさない…というのが答えになってしまうのだ。
と、ここまで書いてきたが、ではどうして地形の入ったゲームが優秀な開発者のいるメーカーから次々とリリースされたのかというと、皮肉な事に、地形は開発の段階では非常にうまく機能したに違いないからだ。
なぜなら、開発した人間は当然地形の使い方を知っているし、地形の有利不利もわかっている。最初からルールが分かっているなら、開発段階ではうまく行くのも当たり前で、地形の事がわかっていないプレイヤーに出して、初めて問題が発覚したわけだ。
逆の言い方をするなら「それをプレイするプレイヤーなら100%使い方が分かる地形が出てくる」ならば、地形は極めて有効に機能するに違いない。
そんなもんあるわけないと思うかも知れないが、実はこの「地形」をうまく使えている格闘ゲームジャンルが存在する。
それはプロレスゲームだ。
プロレスゲームでロープや場外、はたまたコーナーポストを使わないゲームなど遙か昔からほとんど存在しないし、果ては椅子まで持って、殴ることも出来たりする。
これから考えれば、ロープとコーナーポストに対応するものを、それっぽい雰囲気でうまく配置することが出来たなら、地形を使いこなせるゲームが出てくるのかも知れないな…などと、プロレスゲームファンの僕は思ってしまうのだった。
これは一部文字数の都合でカットしたところを、再度書き足したのを除いてほとんどアップデートしてない。
なんでこれを載せたのかというと、最近、格闘ゲームのアンジュレーションがなぜうまく行かないのかを説明することがあったから。
極めて単純な理屈だと思うのだけど、これに気がついていない人は結構多いらしい。
ただ、この文の最後に書いた「プロレス」も今や「誰でも知っている」とは言い難いので、誰にでも確実に通じる仕掛け…ではなくなってしまったなあと思うのだった。
今回は、2005年の電撃プレイステーションに載せたコラム。
■■■
今『鉄拳5』をやっているのだが、これが猛烈に出来がいい。レビューをやっていた当時なら90点以上はつけないと嘘でしょうって代物。
およそ、アーケードファンにはケチのつけようのない完成度なのだが、この作品、鉄拳4と比較してエラく違う作風になっている。
いや、正確に言うなら、鉄拳5は1-3の直系の子孫で、4が別の要素を持った違う系列の作品なのだ。
その1~3、5と4の一番違うところは「地形効果」。4で入れた地形の要素を5では全て取り払って、先祖返りしたわけだ。
元々、このジャンルには「リングアウト負け(勝ち)」といった端を意識しないといけないゲームがあったが、それを大幅に拡張し、そのバトルフィールドそのものが、斜めになっていたり、形が四角や丸といった単純な物でなくなったり、箱があったりと…フィールドをリアルにすることに『バーチャファイター3』が挑戦したわけだ。
で、この3でのチャレンジを受けて、『DOA2』や『鉄拳4』でも地形効果が取り入れられたわけだが、ゲームデザイナーやプログラマに取っては意味のあるチャレンジだったろうが、正直な話、ゲームシステムとしては成功したとは言い難い。
この理由はいくつか考えられるが、まず第一に「要素が増える、すなわち複雑化する」のがある。ただでさえ相手との駆け引きに忙しいのに、考えることが増えるのは面倒なのは間違いない。そして当然それはゲームが複雑ってことだから、プレイ人口が少なくなる、すなわちメジャーになりにくいってことになる。
第二に、一見、地形効果ってのはリアルで面白いように見えるが、実は現実からはかけ離れた扱いにくい状況だ。確かに映画やコミックの中では、地形をうまく使った格闘シーンなんていくらでもあるが、これは映画では慎重に「盛り上がるように」いろいろなモノが配置されていて、それをシナリオ通りに順次使うモノでゲームに応用するのは難しい。当たり前だがコミックでも盛り上げようのもので、ゲームで使うのに難しいのは変わらない。また実生活で毎日のように地形効果を使って、喧嘩をしている人はそうそういないのは間違いないだろう。
そして現実に見たり、やったりする格闘は、たいていスポーツの形を取っていて、平坦な道場で、せいぜい場外がある程度の地形的には極めて単純な所で行われている。すなわち、一見リアルに見える設定は実はプレイヤーの「リアルな感覚」には、全くないモノなわけだ。
しかもだ。これに加えて操作系の問題が面倒に拍車をかける。
現実世界で相手が1メートル高い台の上に乗っているときに「しゃがみキック」で足払いをしようとする人間はいないだろう。ところがゲームでは操作系の都合上、簡単にこれが出来てしまう。これを解決するには、自動で補正して相手が上にいるときには、上にあたるしゃがみキックが出る、状況に応じて「しゃがみキックの性能が変わる」覚えることの多い面倒なゲームを作るか、それとも地形はただの見かけで全然意味がないゲーム(しゃがみキックの性能は常に同じなのだから、見かけが違うだけだ)を作るかのどちらかになってしまうことになる。
と、これでわかると思うが、地形というのは、どこの誰もが使い方を分かって、しかもそれが機能する「リングアウト」程度以外は、まず意味をなさない…というのが答えになってしまうのだ。
と、ここまで書いてきたが、ではどうして地形の入ったゲームが優秀な開発者のいるメーカーから次々とリリースされたのかというと、皮肉な事に、地形は開発の段階では非常にうまく機能したに違いないからだ。
なぜなら、開発した人間は当然地形の使い方を知っているし、地形の有利不利もわかっている。最初からルールが分かっているなら、開発段階ではうまく行くのも当たり前で、地形の事がわかっていないプレイヤーに出して、初めて問題が発覚したわけだ。
逆の言い方をするなら「それをプレイするプレイヤーなら100%使い方が分かる地形が出てくる」ならば、地形は極めて有効に機能するに違いない。
そんなもんあるわけないと思うかも知れないが、実はこの「地形」をうまく使えている格闘ゲームジャンルが存在する。
それはプロレスゲームだ。
プロレスゲームでロープや場外、はたまたコーナーポストを使わないゲームなど遙か昔からほとんど存在しないし、果ては椅子まで持って、殴ることも出来たりする。
これから考えれば、ロープとコーナーポストに対応するものを、それっぽい雰囲気でうまく配置することが出来たなら、地形を使いこなせるゲームが出てくるのかも知れないな…などと、プロレスゲームファンの僕は思ってしまうのだった。
■■■
これは一部文字数の都合でカットしたところを、再度書き足したのを除いてほとんどアップデートしてない。
なんでこれを載せたのかというと、最近、格闘ゲームのアンジュレーションがなぜうまく行かないのかを説明することがあったから。
極めて単純な理屈だと思うのだけど、これに気がついていない人は結構多いらしい。
ただ、この文の最後に書いた「プロレス」も今や「誰でも知っている」とは言い難いので、誰にでも確実に通じる仕掛け…ではなくなってしまったなあと思うのだった。
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