2011-06-15 Wed [ 転載物::商業誌 ]
これは『電撃王』や『電撃プレイステーション』に載せていたコラムの中で思い入れが深いものを、細かくアップトゥデートして載せていくシリーズ。
今回は、1998年初頭の電撃王に載せたコラム(なんてこったい、これは13年前に書いたわけだw)。
新年明けましておめでとう…なんて毎年書くけれど、この原稿、実は年末に書いているんだよね(苦笑)。毎年、毎年、何度書いても慣れないんだけれど(笑)。
さて、それはともかくとして。
今回は、ワリとインターネットで話題になっている(らしい)『エミュレータ』について。
まず、エミュレータってモノ自体を分からない人がいるだろうから説明しておこう。
簡単に言えばエミュレータとは「あるハードウェア(プロの世界では周辺チップなどが多い)をコンピュータの上で仮想ハードウェアとして実現するプログラム」ということになる。
ざっくばらんな言い方をすれば「ハードウェアシミュレータ」なワケ。
ではインターネットで流通しているのは「何のハードウェアシミュレータ」なのかというと、話題になっているのは古いパソコン・アーケード・ゲームマシンのシミュレータなのだ。
つまり、「君のパソコンであの(懐かしの)マシンが動く!」って代物なワケ。かなり楽しそうに聞こえるでしょ。
さて、シミュレータと言っても詰まらないマシンならガッカリなのだが、これがまた揃っているマシンも凄い。
具体的に言うなら、例えばパソコンではMSX、シンクレア、アップル(マックではなく、20年近く前のAPPLEIIってマシン)、コモドール(C64/VIC)、アタリ(パソコンも作っていたのだ)、ゲームマシンではマックスマシーン(マテル)、アタリ、ファミコン、SFC、リンクスなどなど、およそあらゆる有名ハードウェアが出そろっている。
唯一残念なのが、日本独自のマシンでメジャーでないもの(具体的には『ぴゅう太』とか『スーパーカセットビジョン』など)がないのが残念な事ぐらいだ。(ただエミュレータを作るためには、ハードウェアが現存していないといけない。古いマシンほどハードウェアがないので、まあ日本の中でそれもあまりメジャーでないマシンなど、なくても驚かないが)
でも、それらのマシンが動くからと言っても、そのエミュレータの速度が実際のマシンの10分の1とかだったら、使い物にならなくてガッカリなのだが──これがなんと、だいたい今の標準的なマシン(P5/133以上)だと、ファミコン・PCエンジンぐらいのエミュレータまでなら、一部の特殊な例外を除けばほとんど実機も同然の速度で動くのだ。(いやはや全く技術の進歩は恐ろしい)
実は、僕自身はこのあたりに『今、流行っている理由』があると思っている。
というのも、最近になって取り上げられることが多いので、この手のエミュレータの歴史が短いように見えるが、実は、このエミュレータ自体は数年前から存在していたのだが、使い物にならない速度でしか動かなかったのが正解なのだ。
それが、この数年間のマシンパワーの飛躍的な向上によって「十分に遊べるレベルの速度で動くようになった」事に加えて、インターネットが普及したことで一目に触れるようになっただけ。
さて、それはともかくとして、自分でプログラムを組むことが出来るパソコンのエミュレータならいざ知らず、ゲームマシン(もしくはそれに近いマシン)のエミュレータじゃあ、ソフトがないと動かない。
ソフトなければタダの箱。じゃあ、そのソフトはというと…これがエミュレータの最大のダークサイドだったりする。
ってのも、当たり前だがエミュレータを作ること、それ自体は合法的。
さらに、ROMカートリッジの中身を「パソコンに吸い出して、ROMイメージとして動くようにして、それを個人で楽しむ」って所まではまだ合法。(ただし、このあたりになるとかなりの技術力が必要だが)
だけど…これを例えばインターネットのホームページにアップしたり、どっかの匿名ftpサーバーに置いたりすると、これは『限りなく黒に近いウルトラグレーゾーン』。
まあ、シビアに言うなら「まずこりゃあ法律的に見て、問題あるだろう」って代物になってしまうのだ。
で、ここから先が固い話…というか、まさに本気で『メーカーへの提言』となるわけなのだが──
現実的にハードウェアは古くなるに従って、動かなくなっていく。いかに可動部分が少ないコンピュータといえど、コンデンサや色々なモノが劣化して、ダメになってしまうわけだ。(ゲームマシンだと、それよりも先にだいたいパッドの導電ゴムとかコネクタの方が先にイカれるだろうけれど)
ソフトだって、バッテリバックアップの電池は消耗してデータは消えていくし、ディスクは読めなくなるし、カートリッジだってチップがボケたりしてダメになっていく。
さらに、この業界は変化の激しい業界で、どんな名作だろうと数年で代替わりして生産されなくなるし、生産されなければ当然手に入らなくなるし、中古ソフトとして見る機会も減ってしまう。
それを考えたとき「エミュレータ」は、まさに究極の切り札。ソフトウェアでハードを再現するのだから、絶対にすり減らないし、ハードディスクが吹き飛びでもしない限りなくなりもしない。
マシンが変わっても移植可能だし、どんなマシンで動かすことだって出来る。まさに究極のプラットフォームなのだ。そう考えると、過去の名作を「今の人たちもプレイ出来る形で残す方法」として、エミュレータはまさにベスト。
この「究極のマシン」をアンダーグラウンドな形で埋もれさせるのは余りにもったいないと思う。
だから、僕としてはメーカーにインターネットなどで非公式の形でもいいから、エミュレータに対して対応し、出来れば古いソフトを少々値段が張ってもいいから、売ってくれないかなと言いたい。
そうなれば、古いゲームを「昔、こんなソフトがあったんだよ…今はプレイ出来ないけどな」なんて言われることもなく、末長く残すことが出来るのになあ、なんて思ってしまうのだ。
本当に、メーカーは真剣に考えてみて欲しいと思う。
これまたどうして今回ブログに載せたのか…というと、これまた今と状況全然違うから。
まずPCのエミュレータについて書くと、当時はエミュレータもアングラっぽいところがあったうえに、ROM(BIOSやIPL)がかなりブラックだった(ハードメーカーがROMのプログラムの権利を持っているので、実機を持っている人でないと原理的には法律違反になる)。
ところが、有志の手によって互換ROMプログラムが作られたり、それともメーカーが権利を手放して、パブリックドメインとしてくれたりで、本当に合法なエミュレータがちゃんと存在するようになった。
エミュレータ上で動作するソフトは、相変わらず微妙な問題をはらんではいるけれど、例えばソフトメーカー自身や作者自身がエミュレータ込みで旧作をタダで置いてくれたりすることも事例として見られるようになった。
またプロジェクトeggのように、エミュレータ込みで、レトロPCゲームが安く売られる例も出てきた。
つまり、アンダーグラウンドでない、公式なものにかなりなってきたわけだ。
またゲームマシンについても、とても事情がよくなった。
というのも、LIVE/PSN/バーチャルコンソール/バーチャルアーケードなどで公式にサポートされた遊べる過去のソフトが展開されるようになったからだ。当たり前のことながら、公式にサポートされている公式のソフトなわけで、日の当たるところで堂々と遊べるソフト群ってことになる。
ただ、公式であるがゆえに残念なことはいくつかある。
例えばアイドル物のゲームや映画物のゲームは公式ではまず出ることはない(使用期限に制限があるので。まれにガンヘッドのように海外版ではタイトルが違ってしかも中身は同じなので売れる場合もあるけれど)。また、現在の基準に照らして差別用語や内容上の問題で修正しないと発売できないが、修正が難しいために出せない…なんて場合もある。
さらにメーカーがつぶれて権利がはっきりしない場合も、公式では難しいし、権利が分散している場合も難しい。
そういう意味で公式で難しいソフトというのもあって、手放し万々歳ではないし、正直、映画物やアイドル物などは保存にはアンダーグラウンドなデータに頼らざるを得ないのも事実なのだけど、それでも、公式にレトロゲームがサポートされている今の時代は、本当によくなったと思うのだ。
今回は、1998年初頭の電撃王に載せたコラム(なんてこったい、これは13年前に書いたわけだw)。
■■■
新年明けましておめでとう…なんて毎年書くけれど、この原稿、実は年末に書いているんだよね(苦笑)。毎年、毎年、何度書いても慣れないんだけれど(笑)。
さて、それはともかくとして。
今回は、ワリとインターネットで話題になっている(らしい)『エミュレータ』について。
まず、エミュレータってモノ自体を分からない人がいるだろうから説明しておこう。
簡単に言えばエミュレータとは「あるハードウェア(プロの世界では周辺チップなどが多い)をコンピュータの上で仮想ハードウェアとして実現するプログラム」ということになる。
ざっくばらんな言い方をすれば「ハードウェアシミュレータ」なワケ。
ではインターネットで流通しているのは「何のハードウェアシミュレータ」なのかというと、話題になっているのは古いパソコン・アーケード・ゲームマシンのシミュレータなのだ。
つまり、「君のパソコンであの(懐かしの)マシンが動く!」って代物なワケ。かなり楽しそうに聞こえるでしょ。
どうしてエミュレータをわざわざハードウェアシミュレータと言い換えているかというと、98年当時には「エミュレーション・エミュレータ(emulation / emulator)」って言葉が知られていなかったから、先にエミュレータと書いて、エミュレータ=プログラムで書かれたハードシミュレータだと説明した。当時既にフライトシミュレータ・レーシングシミュレータみたいに「シミュレータ」って言葉は一般化していたので、このように書いたわけだ。
さて、シミュレータと言っても詰まらないマシンならガッカリなのだが、これがまた揃っているマシンも凄い。
具体的に言うなら、例えばパソコンではMSX、シンクレア、アップル(マックではなく、20年近く前のAPPLEIIってマシン)、コモドール(C64/VIC)、アタリ(パソコンも作っていたのだ)、ゲームマシンではマックスマシーン(マテル)、アタリ、ファミコン、SFC、リンクスなどなど、およそあらゆる有名ハードウェアが出そろっている。
唯一残念なのが、日本独自のマシンでメジャーでないもの(具体的には『ぴゅう太』とか『スーパーカセットビジョン』など)がないのが残念な事ぐらいだ。(ただエミュレータを作るためには、ハードウェアが現存していないといけない。古いマシンほどハードウェアがないので、まあ日本の中でそれもあまりメジャーでないマシンなど、なくても驚かないが)
でも、それらのマシンが動くからと言っても、そのエミュレータの速度が実際のマシンの10分の1とかだったら、使い物にならなくてガッカリなのだが──これがなんと、だいたい今の標準的なマシン(P5/133以上)だと、ファミコン・PCエンジンぐらいのエミュレータまでなら、一部の特殊な例外を除けばほとんど実機も同然の速度で動くのだ。(いやはや全く技術の進歩は恐ろしい)
と、ここでは書いたけれど、実はMSXのエミュレータとか、実機と同じ速度とは言いがたかった。特に割り込みを多用するアーケードメーカーの作っている作品は簡単にエミュレーションが破綻していた。
実は、僕自身はこのあたりに『今、流行っている理由』があると思っている。
というのも、最近になって取り上げられることが多いので、この手のエミュレータの歴史が短いように見えるが、実は、このエミュレータ自体は数年前から存在していたのだが、使い物にならない速度でしか動かなかったのが正解なのだ。
それが、この数年間のマシンパワーの飛躍的な向上によって「十分に遊べるレベルの速度で動くようになった」事に加えて、インターネットが普及したことで一目に触れるようになっただけ。
さて、それはともかくとして、自分でプログラムを組むことが出来るパソコンのエミュレータならいざ知らず、ゲームマシン(もしくはそれに近いマシン)のエミュレータじゃあ、ソフトがないと動かない。
ソフトなければタダの箱。じゃあ、そのソフトはというと…これがエミュレータの最大のダークサイドだったりする。
ってのも、当たり前だがエミュレータを作ること、それ自体は合法的。
さらに、ROMカートリッジの中身を「パソコンに吸い出して、ROMイメージとして動くようにして、それを個人で楽しむ」って所まではまだ合法。(ただし、このあたりになるとかなりの技術力が必要だが)
だけど…これを例えばインターネットのホームページにアップしたり、どっかの匿名ftpサーバーに置いたりすると、これは『限りなく黒に近いウルトラグレーゾーン』。
まあ、シビアに言うなら「まずこりゃあ法律的に見て、問題あるだろう」って代物になってしまうのだ。
で、ここから先が固い話…というか、まさに本気で『メーカーへの提言』となるわけなのだが──
現実的にハードウェアは古くなるに従って、動かなくなっていく。いかに可動部分が少ないコンピュータといえど、コンデンサや色々なモノが劣化して、ダメになってしまうわけだ。(ゲームマシンだと、それよりも先にだいたいパッドの導電ゴムとかコネクタの方が先にイカれるだろうけれど)
ソフトだって、バッテリバックアップの電池は消耗してデータは消えていくし、ディスクは読めなくなるし、カートリッジだってチップがボケたりしてダメになっていく。
さらに、この業界は変化の激しい業界で、どんな名作だろうと数年で代替わりして生産されなくなるし、生産されなければ当然手に入らなくなるし、中古ソフトとして見る機会も減ってしまう。
それを考えたとき「エミュレータ」は、まさに究極の切り札。ソフトウェアでハードを再現するのだから、絶対にすり減らないし、ハードディスクが吹き飛びでもしない限りなくなりもしない。
マシンが変わっても移植可能だし、どんなマシンで動かすことだって出来る。まさに究極のプラットフォームなのだ。そう考えると、過去の名作を「今の人たちもプレイ出来る形で残す方法」として、エミュレータはまさにベスト。
この「究極のマシン」をアンダーグラウンドな形で埋もれさせるのは余りにもったいないと思う。
だから、僕としてはメーカーにインターネットなどで非公式の形でもいいから、エミュレータに対して対応し、出来れば古いソフトを少々値段が張ってもいいから、売ってくれないかなと言いたい。
そうなれば、古いゲームを「昔、こんなソフトがあったんだよ…今はプレイ出来ないけどな」なんて言われることもなく、末長く残すことが出来るのになあ、なんて思ってしまうのだ。
本当に、メーカーは真剣に考えてみて欲しいと思う。
■■■
これまたどうして今回ブログに載せたのか…というと、これまた今と状況全然違うから。
まずPCのエミュレータについて書くと、当時はエミュレータもアングラっぽいところがあったうえに、ROM(BIOSやIPL)がかなりブラックだった(ハードメーカーがROMのプログラムの権利を持っているので、実機を持っている人でないと原理的には法律違反になる)。
ところが、有志の手によって互換ROMプログラムが作られたり、それともメーカーが権利を手放して、パブリックドメインとしてくれたりで、本当に合法なエミュレータがちゃんと存在するようになった。
エミュレータ上で動作するソフトは、相変わらず微妙な問題をはらんではいるけれど、例えばソフトメーカー自身や作者自身がエミュレータ込みで旧作をタダで置いてくれたりすることも事例として見られるようになった。
またプロジェクトeggのように、エミュレータ込みで、レトロPCゲームが安く売られる例も出てきた。
つまり、アンダーグラウンドでない、公式なものにかなりなってきたわけだ。
またゲームマシンについても、とても事情がよくなった。
というのも、LIVE/PSN/バーチャルコンソール/バーチャルアーケードなどで公式にサポートされた遊べる過去のソフトが展開されるようになったからだ。当たり前のことながら、公式にサポートされている公式のソフトなわけで、日の当たるところで堂々と遊べるソフト群ってことになる。
ただ、公式であるがゆえに残念なことはいくつかある。
例えばアイドル物のゲームや映画物のゲームは公式ではまず出ることはない(使用期限に制限があるので。まれにガンヘッドのように海外版ではタイトルが違ってしかも中身は同じなので売れる場合もあるけれど)。また、現在の基準に照らして差別用語や内容上の問題で修正しないと発売できないが、修正が難しいために出せない…なんて場合もある。
さらにメーカーがつぶれて権利がはっきりしない場合も、公式では難しいし、権利が分散している場合も難しい。
そういう意味で公式で難しいソフトというのもあって、手放し万々歳ではないし、正直、映画物やアイドル物などは保存にはアンダーグラウンドなデータに頼らざるを得ないのも事実なのだけど、それでも、公式にレトロゲームがサポートされている今の時代は、本当によくなったと思うのだ。
コメント
あまり注目されない点ですが
非公式なエミュレータからのフィードバックもありますよね。
ステートセーブなんかの使い勝手の向上、工夫に関しては
エミュレーションというよりフロントエンドの改善で
非公式なエミュレータ側のオリジナルなんですが、
公式の方にもさりげなく反映されています。
この辺、メーカー側としても微妙な部分なんでしょうか。
非公式なエミュレータからのフィードバックもありますよね。
ステートセーブなんかの使い勝手の向上、工夫に関しては
エミュレーションというよりフロントエンドの改善で
非公式なエミュレータ側のオリジナルなんですが、
公式の方にもさりげなく反映されています。
この辺、メーカー側としても微妙な部分なんでしょうか。
| atsu | EMAIL | URL | 11/06/15 22:52 | jB3nOvqE |
「メーカー (版権元) が公式に」というのが何より嬉しい事だと思います。
Windows みたいに息の長いプラットフォームだと、新しい OS では動かない場合もありますが、こうした場合でも対応版とかを買いなおしたりすることもできますし。
軽井沢誘拐案内が i アプリで復刻されるとは思いませんでしたが。(笑)
ただ、そっちの方の話だと大きく分けて問題が二つあるのが困りどころですよね。
一つはコスト面。対応コストがない場合であっても、販売周りとかでもやはりコストはかかりますし。そういう面では egg とかはありがたい存在。
もう一つはメーカー自体が無くなっている事。これはもうどうしようもないですが、一応版権買って出してくれるところがある場合 (M&M とか) もありますが、そんなのは極めて一部なのが悲しいですね。
Windows みたいに息の長いプラットフォームだと、新しい OS では動かない場合もありますが、こうした場合でも対応版とかを買いなおしたりすることもできますし。
軽井沢誘拐案内が i アプリで復刻されるとは思いませんでしたが。(笑)
ただ、そっちの方の話だと大きく分けて問題が二つあるのが困りどころですよね。
一つはコスト面。対応コストがない場合であっても、販売周りとかでもやはりコストはかかりますし。そういう面では egg とかはありがたい存在。
もう一つはメーカー自体が無くなっている事。これはもうどうしようもないですが、一応版権買って出してくれるところがある場合 (M&M とか) もありますが、そんなのは極めて一部なのが悲しいですね。
| 近藤@古代図書館 | EMAIL | URL | 11/06/15 20:37 | FBPQlkC. |
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